TL;DR EU MDR Annex II/III が要求する STED(技術文書概要)の第1章(機器の説明と仕様)と第5章(リスク・ベネフィット分析)を Claude(Sonnet 4.6)で作成する実験。ベテラン水準の初稿が約30分で生成、第1章は完成度約90%、第5章はフレームとして7割再利用可。従来 38〜76時間 → AI活用後 14〜28時間(約50〜60%削減)。
目次
はじめに:「またSTED書かないといけない…」問題
医療機器メーカーの薬事・品質担当者なら、一度はこう思ったことがあるはずです。
「またSTED書かないといけない…」
Summary of Technical Documentation(技術文書の概要)、通称 STED。EU MDR(欧州医療機器規制)の申請に必要なこのドキュメント、ベテランが書いても数百時間かかることがざらです。
新製品が出るたびに、品質部門のリソースが根こそぎ持っていかれる。私はこの問題をAIで解決できないか、実際に試してみました。
使ったのは Anthropic 社の Claude(Sonnet 4.6)。結果から先に言うと、ベテランが書いた初稿レベルの STED ドラフトが、30分で出てきました。
STEDとは何か
STED は EU MDR(規則 2017/745)の Annex II および Annex III で要求される技術文書の一部です。
主な構成要素
| 章 | 内容 |
|---|---|
| 第1章 | 機器の説明と仕様 |
| 第2章 | 製造業者と代理人の参照情報 |
| 第3章 | 設計・製造情報 |
| 第4章 | 一般安全・性能要件(GSPR)への適合情報 |
| 第5章 | リスク・ベネフィット分析と残留リスク管理 |
| 第6章 | 製品の検証・妥当性確認 |
| 第7章 | 市販後情報 |
これを製品ごとに、最新の規格・ガイダンスに適合した形で作る必要があります。しかも、一度書いたら終わりではなく、設計変更・規制改正・市販後情報の更新に合わせて継続的にメンテナンスが必要です。
実験の設定
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象範囲 | STED 第1章(機器の説明と仕様)と第5章(リスク・ベネフィット分析) |
| 使用AI | Claude Sonnet 4.6 |
| 参照規格 | EU MDR Annex II / ISO 14971:2019 / EU MDR Annex I(GSPR) |
| 既存資産 | 製品の設計仕様書(社内文書) |
この2章を選んだ理由
- 第1章(機器の説明): 比較的テンプレート化しやすく、AI相性が良いと予想
- 第5章(リスク・ベネフィット分析): ISO 14971 の知識が必要で、AI の実力が問われる
実際にやったこと
ステップ1: コンテキストを与える
まず Claude に以下を渡しました。
あなたは医療機器の薬事・品質の専門家です。
EU MDR Annex II に準拠した STED を作成します。
以下の製品情報をもとに、STED 第1章(機器の説明と仕様)の
ドラフトを作成してください。
[製品仕様書の貼り付け]
EU MDR Annex II の章立てに従い、漏れなく記述してください。
ステップ2: セクションごとに深掘り
第1章の骨格が出てきたら、不足している情報をフォローアップの質問で補完。
「1.3 の付属品リストに使い捨て品も含めてください」 「1.5 の適用規格に ISO 10993-1 を追加して整合性を確認してください」
こういったやりとりを繰り返すことで、ドキュメントが精緻化されていきます。
ステップ3: 第5章(リスク分析)へ
ここが本番です。ISO 14971 準拠のリスク分析を AI に組み立てさせてみました。
ステップ1で作成した第1章をコンテキストとし、
ISO 14971:2019 に準拠した STED 第5章を作成してください。
含めるべき内容:
- リスクマネジメント計画の概要
- ハザード分析(Annex C のカテゴリ網羅)
- リスク低減措置(設計・製造・情報の3レイヤー)
- 残留リスクのベネフィット・リスク評価
- リスク管理プロセスの結論
形式: EU MDR 申請文書として通用するレベル。
ISO 14971 の対応条項を各セクションに明記してください。
結果:正直なところ
良かったこと ✅
第1章は約90%の完成度
機器の説明、用途、対象患者、仕様リスト、付属品、参照規格など、構造化された情報の整理は AI が非常に得意です。ゼロから書き始めるよりも圧倒的に速い。
第5章のリスク分析は、フレームとして非常に使えるレベル
ハザードの列挙、リスクマトリクスの構造、ISO 14971 準拠の記述形式は正確に出てきました。ベテランが「ゼロから考えて書く」部分の7割くらいが自動化できる感覚。
正直な限界 ⚠️
製品特有のリスクは、専門家のレビューが必須
AI は一般的なハザードは網羅してくれますが、「この製品の使用環境の特殊性」「この製品特有の故障モード」などは、実務経験がないと判断できません。
PMDA や各国規制への対応は要注意
EU MDR と日本の薬事要件は異なります。AI は一般的な情報は把握していますが、最新のガイダンス変更や国別の細かい要求事項は必ずダブルチェックが必要です。
時間の比較(従来 vs AI活用)
| 文書部分 | 従来 | AI活用後 |
|---|---|---|
| 第1章ドラフト作成 | 8〜16時間 | 1〜2時間 |
| 第5章リスク分析フレーム | 20〜40時間 | 3〜6時間 |
| レビュー・修正 | 10〜20時間 | 10〜20時間(変わらず) |
| 合計(初稿まで) | 38〜76時間 | 14〜28時間 |
| 削減率 | — | 約50〜60% |
薬事・品質担当者へのメッセージ
「AIに書かせたドキュメントを申請に使えるのか?」
これはよくある疑問です。私の答えはシンプルです。
AIが書いたドラフトをベースに、専門家がレビュー・責任を持って仕上げたドキュメントは、申請に使える。
AI はあくまでツールです。最終判断と責任は常に人間が持つ。その前提のうえで、初稿作成という最も時間のかかる作業を AI に任せることは、合理的な選択だと思います。
「レビューと判断」は人間がやる必要があります。でも「ゼロから初稿を書く」という最も時間のかかる作業が半分以下になる。これは相当なインパクトです。
FAQ
Q1. EU MDR の MDCG ガイダンスもAIに参照させられますか? A. Claude は MDCG(Medical Device Coordination Group)ガイダンスの主要文書を学習データに含んでいますが、最新の改訂版は確認が必要です。プロンプトに具体的なガイダンス番号(MDCG 2019-9 等)を明示すると、より正確な引用が得られます。
Q2. 第2章〜第7章もAIで書けますか? A. 書けますが、章ごとに専門知識のレベルが違います。第3章(設計・製造)は社内データ依存度が高く、AI の貢献は限定的。第4章(GSPR適合)は表形式整理が中心で AI 相性◎。各章を別記事で取り扱う予定です。
Q3. 日本の薬機法(QMS省令)対応にも使えますか? A. 同じプロンプト構造で QMS 省令対応の文書も作成可能ですが、PMDA 特有の用語(例: STED ではなく「申請書」「添付資料」)に置き換える必要があります。詳細は PMDA 事前相談 Q&A 記事を参照ください。
関連リソース
続きとして読むべき記事
- ISO 14971 リスクマネジメントファイル全体を Claude Code で構築
- ISO 14971 FMEA を Claude AI で作る
- PMDA 事前相談 Q&A を Claude AI で作る
- EU MDR の臨床評価報告書(CER)を Claude AI で設計
即実践できるテンプレート
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note の短縮版
STEDをClaude AIで書いてみたら、ベテランの初稿レベルが30分で出てきた話
※ 本記事の内容は筆者の個人的な実験・見解です。実際の申請業務に AI を活用する際は、各社の品質管理手順および規制要件に従って適切なレビューを実施してください。