TL;DR ISO 14971 における FMEA(故障モードと影響解析)を Claude で作成する実験を行い、ハザード洗い出し10分・FMEA表初稿30分で完成。従来 6〜9時間 → AI活用後 2〜3時間(約60〜70%削減)。プロンプト設計を「役割・背景・手順・アウトプット形式」の4要素で組むのがコツ。網羅性はむしろ向上、品質は最終レビューする実務者の判断で担保。
目次
- はじめに:「またFMEAか」問題
- そもそもFMEAって何が大変なのか
- 実験の設定
- プロンプト設計が全て
- 結果:10分でハザードリスト・30分でFMEA初稿
- AIが得意だったこと・苦手だったこと
- 実務での使い方:AIは「たたき台製造機」
- 工数削減の可能性
- FAQ
- 関連リソース
はじめに:「またFMEAか」問題
医療機器の開発をやっている人なら、一度はこう思ったことがあるはずです。
「またFMEA書かないといけない……」
リスクマネジメントの中核である FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モードと影響解析)。ISO 14971:2019 に基づいてきちんと作ろうとすると、ハザードの洗い出しだけで半日、リスク評価の根拠をまとめるのにさらに数日。しかも「ちゃんと書けてるか」の自信が持てない。
そんな悩みを抱えながら、今回は Claude AI で FMEA の初稿を作る実験をしてみました。
結論から言うと、ハザードの洗い出しが10分、FMEA表の初稿が30分で完成しました。完璧ではないけれど、ゼロから自分で書くより圧倒的に速かった。その実験の詳細を全部公開します。
そもそもFMEAって何が大変なのか
FMEA は ISO 14971 におけるリスク分析の中心的な文書です。大変な理由は3つあります。
① ハザードの洗い出しが属人的
経験の浅い担当者が書くと、ハザードの抜けが多い。「電気系は書けたけど、生物学的リスクを忘れてた」みたいなことが起きます。ISO 14971 Annex C には参考リストがありますが、自社製品に当てはめる判断は人間がやるしかない。
② リスクスコアの根拠が曖昧になりがち
発生確率 P と重篤度 S の数字をどう決めるか、会社によって基準がバラバラ。新人が書いた場合「なんで P=3 なの?」と聞かれても答えられない、という状況がよく起きます。
③ 低減措置の記述が薄い
「設計で対策した」で終わってしまい、具体的な低減措置の内容や、それによってリスクがどう変わったかが不明確になりがちです。
実験の設定
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | 非接触体温計(仮想の汎用機器として設定) |
| 使用AIツール | Claude Sonnet 4.6 |
| 参照規格 | ISO 14971:2019 / IEC 62366-1:2015 |
| 目標 | FMEAの初稿(ハザード10件以上、各行の記述が審査に耐えられるレベル) |
実験前の自分の予想は「ハザードリストくらいは出せるだろうけど、スコアの根拠は無理だろう」でした。結果は半分当たり、半分外れ。詳細は後述します。
プロンプト設計が全て
最初に適当なプロンプトで試したら、案の定ダメでした。
失敗例(最初のプロンプト)
非接触体温計のFMEAを作ってください。ISO 14971に基づいて。
返ってきたのは、ふんわりした箇条書きリストで、表形式でもなく、スコアも根拠もない。使えない。
成功例(4要素で再設計)
プロンプトを 「役割・背景・手順・アウトプット形式」 の4要素で設計し直したところ、ISO 14971 Annex C のハザード分類に沿って、P/S 根拠付きの FMEA 表が返ってきました。
# 役割
あなたは ISO 14971:2019 と IEC 62366-1:2015 に精通した
医療機器の品質管理エンジニアです。
# 背景(製品情報)
- 対象製品: 非接触体温計
- 使用環境: 家庭・診療所の体温測定
- ターゲットユーザー: 一般消費者・看護師
- 主要機能: 額面赤外線測定、Bluetooth でスマホ連携
# 手順
1. ISO 14971 Annex C のハザード分類(エネルギー / 生物学的・化学的 /
操作的 / 情報・ユーザビリティ / 機能的)に沿ってハザードを洗い出す
2. 各ハザードに対して、P (Probability) と S (Severity) を 1〜5 で推定
その根拠を1〜2文で明示する
3. 低減措置を「設計 / 製造 / 情報提供」の3レイヤーに分けて記述
4. 残留リスクの推定スコアと受容判断(Acceptable / ALARP / Unacceptable)を提示
# アウトプット形式
| # | カテゴリ | ハザード | 危険状態 | 傷害 | P | S | RPN | 根拠 | 低減措置 (設計) | 低減措置 (製造) | 低減措置 (情報) | 残留P | 残留S | 残留RPN | 受容判断 |
15行以上、Annex Cの全カテゴリをカバーしてください。
このプロンプトを送ったら、約2分でFMEA表の初稿が返ってきました。
結果:10分でハザードリスト・30分でFMEA初稿
ハザード件数の内訳
- エネルギー系 4件
- 生物学的・化学的 2件
- 環境(操作的) 3件
- 情報・ユーザビリティ 3件
- 機能的 2件
- 合計: 14件
所要時間の内訳
| ステップ | 時間 |
|---|---|
| プロンプト設計(試行錯誤含む) | 約20分 |
| AIが初稿を生成 | 約2分 |
| 内容の確認・修正 | 約10分 |
| 合計 | 約32分 |
自分で同じものを書こうとすると、経験があっても2〜3時間はかかります。
AIが得意だったこと・苦手だったこと
得意だったこと ✅
- ハザードの網羅性: Annex C のカテゴリーに沿って漏れなく洗い出してくれた
- 表形式での整理: プロンプトで列を指定したら、ちゃんとその形式で出力してくれた
- 低減措置の分類: 設計・製造・使用情報の3レイヤーで考えることができていた
- 残留リスクの構造化: 「低減措置後のP/S」と「受容判断」を機械的に提示
苦手だったこと ❌
- 自社製品固有のリスク: 実際の部品構成、回路設計の情報がなければ出せない
- スコアの根拠の精度: 自社のリスク受容基準(RAC)との照合は人間が必要
- 残留リスクの判断: 低減措置後の許容可否は会社の方針と照らし合わせる必要がある
実務での使い方:AIは「たたき台製造機」
[AIにやらせること]
✓ ハザードの初期リスト生成(網羅性の担保)
✓ FMEA表の初稿作成(フォーマット整理)
✓ 一般的な低減措置のアイデア出し
[人間がやること]
✓ 自社製品固有のリスクの追加・修正
✓ P・Sスコアの自社基準との照合・調整
✓ 低減措置の実現可能性確認と文書化
✓ 残留リスクの受容可否判断
✓ 最終レビューと承認
つまり、AIが「優秀なアシスタントの初稿」を作り、薬事担当者が「専門家としての最終判断」をするという分担です。
工数削減の可能性
| ステップ | 従来 | AI活用後 |
|---|---|---|
| ハザード洗い出し | 2〜3時間 | 15分 |
| FMEA初稿作成 | 3〜4時間 | 30〜40分 |
| レビュー・修正 | 1〜2時間 | 1〜2時間(変わらず) |
| 合計 | 6〜9時間 | 2〜3時間 |
| 削減率 | — | 約60〜70% |
「品質が下がるのでは」という懸念
「AIを使うと品質が下がるのでは?」という懸念について率直に答えます。
網羅性は下がりません。むしろ上がる可能性があります。
人間がゼロから書くと、自分の経験範囲のハザードしか出てこない。AI は Annex C のカテゴリーに沿って体系的に出してくれるので、「思いつかなかったハザード」が補完されます。
品質を担保するのは AI ではなく、最終レビューをする薬事担当者の判断です。その点は AI 活用前後で変わりません。
FAQ
Q1. ChatGPT でも同じプロンプトで動きますか? A. 動きますが、私の検証では Claude の方が「Annex C 各カテゴリの均等な網羅」が優れていました。ChatGPT は思いついた順に出力する傾向があり、カテゴリの偏りが出やすかったです。
Q2. プロンプトのテンプレートはどこかで配布していますか? A. はい、本記事のプロンプトをカスタマイズ可能な形にした MedAgent JP の Excel テンプレート(¥29,800) に含まれています。詳細は記事末尾の関連リソースを参照ください。
Q3. 残留リスクの受容判断もAIに任せられますか? A. 任せられません。受容判断は製造業者の責任で行うべき判断であり、ALARP 原則の適用や ベネフィット・リスク分析は AI が代替できる領域ではありません。
Q4. ISO 14971:2019 と ISO 14971:2007 の違いは? A. 2019年版では用語の整理(特に Risk → Risk acceptability)と、ベネフィット・リスク分析の要求が明確化されました。プロンプトでは必ず「ISO 14971:2019」を明示してください。古い情報が混入するのを防げます。
関連リソース
続いて読むべき記事
- ISO 14971 リスクマネジメントファイル全体を Claude Code で構築(FMEAを含む全RMFを1日で完成)
- PMDA 事前相談 Q&A を Claude AI で作る
- STED を Claude AI で書く
即実践できるテンプレート
🛠 ISO 14971:2019 リスクマネジメントファイル Excelテンプレート【AI活用対応版】¥29,800
本記事で使ったプロンプトと組み合わせて使える、6シート構成のExcelテンプレートです。
note の短縮版
ISO 14971 のFMEAを Claude AI で作ってみたら、ハザード洗い出しが10分で終わった話
※ このレポートは実験的なAI活用の記録です。実際の薬事申請に使用する文書は、必ず専門家のレビューを受けてください。